1-6 溢れてくるコピー商品① このままじゃ、飲み込まれる!

日本限定商品の開発 ベビーマントを例に〈まんがを制すものは、新商品開発を制す。

ところで、なぜ日本限定商品や日本限定色を増やしていたのか。

最大の理由はコピー品対策です。

最初にヒットした、ベビーラップ(足付アフガン、足付おくるみ)が特徴的な商品だったので、コピー商品の出てくる勢いは凄かったです。

以前の章でも書きましたが、最初に出てきたのは、展示会に出展した後。メーカー系の人が多くブースに立ち寄られ、口々に「これ、いいですね~」。(よしっ!)って感じで嬉しかったですね。でも、展示会から帰ってきた私たちのところに来たのは、取引の申し入れではなく、”類似品あらわる!”のニュースばかりでした。

その後、少し落ち着いていましたが、次にコピー商品が出てきたのは、雑誌「赤すぐ」に掲載された後です。

実は、少し前から百貨店さんからこっそりと「いろんなメーカーさんがおたくの商品をサンプルとして買っていってるから注意した方がいいですよ」とも言われていました。ただ、赤すぐ掲載を境に認知度が一気に広がりましたし、いろんなルートから「あの商品が凄い売れてる」というのが広がるんですよね。赤すぐの通販画面でも商品が入荷されてはなくなるのが繰り返されますから、よく見ている人にはわかります(これは、通販で売り上げを伸ばすためにテクニックとしてやる人もいますね。リリース直後に入荷を少なめにしたり、自分たちで何枚も買ったりして、売切れ状態にして賑わい感を出す手法などです。私たちは断じてやらなかったですが・・・)。

そうなると、コピー商品が溢れるくらい出てきました。大手ブランドが素材以外は全くの完コピという商品まで出してきたのは驚きでした。

 

コピー対策と言えば、知財、知的財産権ですよね。

実は、同製品については、オーストラリアのメーカーが複数国において国際特許を保有しており、日本においても意匠権を保有していました。コピー商品に対して知財権をもって、コピー商品を出した大手メーカーと裁判で戦うこともできたかもしれません。(実際にオーストラリアで現地メーカーは裁判を行い、現地の大手競合メーカーに勝って一気に売上を伸ばしました。)

しかし、日本では、裁判なんて時間がかかる上に裁判の維持費用は大変なものになります。一度有名になると別ですが、まだヒットもしてないのに、既に販路を確立している大手メーカーに争いを起こしても、これから販路にしていきたい小売店との関係性を築くのに障害にしかならないのが現実です。(大手メーカーは既に小売店といい関係性を作っているわけで、小売店にとっては、正義がどこにあるかよりも、だいたいはこれまでの関係性が優先されます。残念ですが、大手メーカーと揉め事を起こしている新参者の代理店の商品はめんどくさくて扱いませんよね。この世の常です。)大手メーカーには、それをわかっていて平気でコピー商品を出してくるところもあります。

もちろん、保有知財の優位性に自信があれば、警告書で牽制することもできます。

ただ、客観的に見たときに明らかな優位性を持っているというのは、あまり多くないので、不本意でも、基本的には、BtoCの物販のようなスモールビジネスの立ち上げにあたっては、知財権は、それ自体で真正面から大手と争うのではなく、いかにコピー商品を出させないか、いかにコピー商品が広がるのを遅らせるかのツールとして活かすことが重要だと思います。

もちろん、知財はうまく保有しておくと物凄く効きますので、新商品を出すときは、なんとか知財を確保しておくようにしてくださいね。(そのあたりのノウハウはここでは書きにくいので、またの機会にさせてください。)

 

しかし、やっと灯が当たり始めた時、有効な知財も保有してない状況で、コピー商品が溢れてきたらどうしたらいいのでしょう。

せっかく売れ筋商品を掴んで急激に売上も上がってきたのに、似たような商品がどんどん出てきてどんどん売り上げが落ちます。大体、コピー商品を出す方が販売力があったりするので、お客様(市場)の中で、どっちがオリジナルかわからなくなってきます。そうなる前に、急いでその商品がオリジナルだということを市場に印象付けることが必要です。

一つは、初期に上がってくる利益を少しでも広告費に充てて、オリジナル感を市場に植え付けることですよね。ただ、お客様(市場)というのはあまり露骨にオリジナルを強調するのも逆効果なところがあるので、コピー商品への怒りが出過ぎないよう、うまく消費者の心に刺さる打ち出しをやってください。

もう一つは、地味ですが、王道です。商品の魅力で、コピー商品に抗して買われ続ける商品となる努力をするしかなかったりします。

じゃあ具体的にどうするか・・・

うちの場合に戻りますが、「Snug as a Bug」の場合、知財があって、それなりの手を打っていたにもかかわらず、雑誌掲載以降は一気にコピー商品が出てきました。

対応を急がないといけませんでした。

足がついたおくるみ(アフガン)という特徴的な形をまねたコピー商品がすでに出てきている中で、どのように”先に行っている感(→先にやってた感→オリジナル感)”を出すかです。

私たちは、「Snug as a Bug」の非常に特徴的な、夏用UVカットのストライプ生地に着目しました。

当時、ファッショナブルなUVカット生地は市場にあまりなく、ましてやベビー用というのはほとんどありませんでした(そこは、当時からさすがのUV先進国、オーストラリアです)。そこで、UVカットのストライプ生地をブランドのイメージとして前面に出していきました。

足付おくるみで張り合うより、「おしゃれなUVカットのベビーブランド」としてのブランディングに賭けたわけです。結果的には、これが功を奏します。

 

まず私たちがやったのは、日本限定カラーのリリースでした。オーストラリアのメーカーに、コピー商品が溢れてきた日本の状況、真正面から衝突しない方がいい日本の商習慣、・・・ 私たちの戦略を説明し協力を求めました。海外のメーカーは基本的にめんどくさがりで、限定品とかはやりたがらないのですが、少し無理は言いましたが、彼らはとても協力的でいろいろやってくれました。織り糸のカラーサンプル帳を取り寄せ、限定デザインのストライプについて、キーカラーやミニマム(生産の最小ロット)など相談を重ねました。そして、日本限定ストライプをリリース。

最初にリリースした日本限定色がこれ、「オレンジピンク・ストライプ」でした。

基本的にはオーストラリアのメーカーにデザインを任せましたが、明るいイエロー、オレンジ、濃いピンクのストライプで、非常にセンスのある組み合わせでした。

元々のストライプが人気が高かったので、比較すると爆発的に売れたストライプというわけではありませんでしたが、多くの雑誌で「日本限定」という文字が添えられます。他のコピー商品と違い、お客様の頭の中で「オーストラリア」→「UVカット」→「日本上陸」→「日本限定のリリース」とつながりますから、自然とオリジナル感が市場に根付きました。

 

その後、年々、限定ストライプの数も増やしていきました。少しでも露出させるため、自分たちで、そのストライプのためのキャッチ画像を作成し、いろんな場面で使用しました。

一例ですが、地名シリーズの中で「シェルブール」という名前を付けたストライプがありました。

水色を基調にしたストライプで非常に人気があったのですが、キャッチ画像としてまずは、

を作成しました。

ただ、内部で議論した結果、「ちょっと”シェルブールの雨傘”をイメージさせすぎやろ」ということで、最終的には修正し、

これにしました(笑)。どっちが良かったですかね(笑)。

これも知財権の話ですね。知財権については、他社の侵害に敏感になるのもですが、自社が侵害してしまわないように気を遣うことも重要ですよね。

 

さて、やはり、日本限定ストライプというだけでは、まだまだ弱いですよね。

そこで、日本限定商品を開発することにしました。

またまたオーストラリアのメーカーに相談です。

と、いつの間にか、オーストラリアのメーカーもノリノリになっており、「私たちにいい考えがある!」と言ってきました。こういう時はなるべく彼らの”やる気”と”感性”を活かした方がいいので、「何? 何?」・・・

んで、いろいろとやり取りを繰り返し、出来上がったのが、こちら・・・

ベビー用のサマーマントです。

当時、日本には(たぶん海外にも)夏用のUVカットのマントなんて、ほとんどありませんでした。とくに、このようなポップなデザインのものは全く見たことない程でした。

これが、またスマッシュヒット!

思わぬロングヒットにもなり、なんと!いつの間にか、ビビアン・スーさんまで使ってくれてました。

(「ビビアン・スー」ブログより)

ところで、この開発過程ですが、「よく海外の人とうまくやり取りできたね」と、よく言われます。

実は、サンプルのやり取り以上に活用したのは、”まんが”です。イメージ、寸法、改良点など、言葉だとネィティブスピーカーでも伝わらないことでも、”まんが”だと一発です。

「”まんが”を制すものは、開発を制す」です。

私は、元々エンジニアなんですが、機械設計者のセンスは”まんが絵”に出ると言われます。(なぜか、私の周りには、”まんが”じゃなくて、”まんが絵”って呼ぶ人が多いです。)

社内外で、アイデアを思いついた時、打ち合わせの中で、・・・いろんな場面で、ざーっと”まんが絵”を描いてやり取りをします。実際、作り方から使い方まで頭に描けていないと、”まんが絵”って案外描けないです。言葉でいくら話しても伝わらなかったイメージが、”まんが絵”を見た途端、一斉に共通認識できたりしますし、「ここの紐が届かない~!」みたいなミスも防げます。

寸法の確認もできますが、とくに海外とやり取りをする時は、16(シックスティーン)と60(シックスティー)の間違いとか、致命的ですし、「”ここ”からじゃなくて、”こっち”から5cmね」みたいなやり取りも確実です。(向こうは鬱陶しかったと思いますが、よく「Not from here!」「5cm, from here!!」とか、矢印入れて、グルグルと丸で囲んだりして、描いていました。)

 

絵は、打ち合わせですごく使いますし、世界中どこでも通用するので、恥ずかしがらず、どんどん人前で描いてくださいね。

 

その後、サマーマントに続いて、ブランケット、マルチブランケット(次章で説明予定)、Tシャツ、ワンピースなど、商品ラインアップも、ブランドらしい幅広さになってきました。

これらの努力の結果として、「日本グッドデザイン賞」も頂くのですが、この頃は、オーストラリア現地でこのブランドを知る人から、「Snug as a Bugの、日本での発展具合が凄い」とよく言ってもらってました。(実は、イメージ面もあって、オーストラリア・ブランドを前面に出していましたが、現地では商品バリエーションはずっと少なくて、ベビーラップ(足付アフガン)の単品ブランドのイメージが強いのです。それに対し、日本では、ベビーマントやマルチブランケットなど、商品数が多く、ストライプ柄のUVカット・ベビーブランドのイメージが強く、アイテム感よりもブランド感が強いと言われるのです。)

同賞の受賞については、ノウハウもあるので、また章を改めて・・・

 

 

次は、

1-7 溢れてくるコピー品② 知財・・・タネ作り、調べる、申請する、使う(準備中)

 

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