1-3 ヒット商品来たー!; 広島の美人ママ啞然〈ヒットのプロセス:イノベーター理論 最初に誰が買う?〉

起業以来、右往左往していた私たちに思わぬヒット商品が現れました。

それが、「Snug as a Bug」の「足付アフガン」です。

このアイテムについては、実は自身で探したのではなく、最初は福岡にある、オーストラリア総領事館からの紹介でした。別件で打ち合わせした際、領事館の商務官さんから「オーストラリアで驚異的なヒットをしているベビー用のアイテムらしいのですが、これのどこがいいのか、よくわからないので、ちょっとテストしてもらえませんか?」と言われたのが、「Snug as a Bug」のベビーラップ(足付アフガン)でした。普通で言う「おくるみ(アフガン)」に足がついたような奇妙なベビー用品です。私も子供がおらず、(後日聞くと)商務官さんにもお子さんがおらず、お互いよくわからないまま、オーストラリア現地からのテストマーケティング要請に絡んだ人達、みんなが安請け合いしてつながり、うちの店頭に足付アフガンが並ぶことになりました。

最初に出したのは広島地下街のイベント会場。前項で触れた、福岡で期間限定ショップを出す、少し前です。何気なくテーブルにディスプレイしていました。「あ~、今日も売れねえな~」と思いながら接客していた私の前で、いきなり凄い美人のママさんが立ち尽くしました。目は完全にテンです。

(私)「どうかしました?」

(お客さん)「いえ・・あの・・ これ、輸入品ですか?」

(私)「そうなんですよ。オーストラリアでヒットしているらしいんですが、これ何ですか?」と、私の方がお客さんに聞いてしまうという・・

(お客さん)「(え? そっちが聞く?という顔をしながら)いや・・ これ、便利ですよね・・・」

(私)「え!? どこがですか?」

(お客さん)「(こいつ何なんだという感じで)いや、こういうのが欲しいとずっと思ってたんです。」

(私)「え!? どうしてですか・・?」

(お客さん)「いや、ベビーカーにすごく便利なんです。」

(私)「???」と、よくわからんまま、喜んで買っていってくれました。これ、本当の話です。

 

イベントから帰ってきて、自分のお店で、広島でこんな事があったんだよ~と話をしていたら、近所のおばさんが入ってきました。

と、またしてもこの「足付アフガン」の前で立ち尽くします・・・

(私)「ひょっとして、このベビー服ですか?」

(お客さん)「これ、輸入品? これ便利よね~」

(私)「いや、そうらしいんですよ。そんなに便利なんですか?」

(お客さん)「え? あなた、知らないで売ってるの?」と、やや怒りながら、

「もう!・・・ ちょっとメモか何か持っておいで!」

「は、はい・・・」

あれが誰だったのか、いまだにわからないのですが、

”最近ベビーカーが人気だが、固定用のベルトのせいで足が出て、赤ちゃんの足が寒そうなこと”、

”このベビー服は簡単に羽織らせてベビーカーにも足が出ず乗せやすいこと”、

”フリースやUVカット生地が洗濯してもすぐ乾く生地でガンガン洗えること”・・・など、

色々と”この商品がいかに便利か”を教えてくれました。もちろん全部メモを取らされました。

その方は、30分ほど解説頂き、商品も買ってくれて、

「あたしが言った通りのことをお客さんに説明しなさい!みんな買ってくれるから。」

と颯爽と去っていきました。どれもこれも本当の話です。

程なく、前述の期間限定ショップ出店が決まり、半信半疑ながら、謎のおばさんが教えてくれた内容を手作りの説明書きにして、手渡し用の小さなコピーも用意して、(ちょうど夏だったので)UVカットのベビーラップ(足付アフガン)を店頭に置いて、小さな期間限定ショップをショッピングモール内にオープンさせました。2004年7月でした。

最初は、誰も知らない店なので誰も入ってきません。でも、徐々に同じように店頭で立ち尽くす人が現れ始めました。ひょっとして・・と思い、謎のおばさんが教えてくれた通りに説明しました。すると、どのお客さんも「そう!そう!」と大共感。その場で買ってくれる方も多く、迷う方には用意した説明のコピーを渡していきました。すると、噂が噂を呼び、福岡の小さな店からベビーラップ(足付アフガン)ブームに火が点いていきました。

 

一般に、ヒット商品が生まれるマーケッティング的プロセスで、イノベーター理論と呼ばれるものがあります。
よく言われるのは、
もっとも新しいものに飛びつくタイプである、イノベーターから火が点き、
次に、流行に敏感で常にアンテナを張っている、アーリーアダプターに移行。
その後、比較的慎重だが新しいものも柔軟に取り入れる、アーリーマジョリティが取り入れ、
さらに保守的で周囲が取り入れてから自分も取り入れる、レイトアダプターへ。
そして最後にラガードと呼ばれる層に・・・という理論です。
それぞれ、イノベーター 2.5%、アーリーアダプター 13.5%、アーリーマジョリティ 34%、レイトマジョリティ34%、ラガード 16% とされています。
また、アーリーアダプターからアーリーマジョリティに移行するところには一つの壁(溝;キャズム)があるといわれ、(イノベーター 2.5% +アーリーアダプター 13.5% =)”16%の壁”と言われます。

この理論のそれぞれのタイプというのは、私の経験的には、かなり違和感を感じるのですが、なるほどその通りという部分もあります。
確かに、先駆け的な人はよく2~3%と言われますし、流行から大流行への壁が市場占有率16%くらいと言われます。
私たちの場合も、足付アフガンが福岡で流行し始めたとき、小さな期間限定ショップの1店舗のみで年間2000枚以上売れていたのですが、当時の福岡市の出生数が14000人くらいなので、確かに15%くらいに行き渡った感じなんですよね。
このあと、さらに販売数は増えましたが、客層が移行するというよりも、お客様のエリアが福岡以外に百貨店と通販誌の2つのルートで同時に広がっていった形なので、販売増がエリアの広がりか人気の浸透か、今となっては詳細な分析は難しいです。ただ、非常に勢いよく流行していく過程は、市場の16%くらいまでが一つの区切りになり、そのあたりで出てくる壁を超えるとさらに大きく流行するというのは頭に入れておいた方がよさそうです。

 

この夏に、これって人気に火が点き始めたのかな?という感じがあり、秋冬にかけて、福岡ローカルですが本当に火が点き始めました。

実は、12月には6坪の小さな店でベビーラップ(足付アフガン)だけで400枚売れたのですが、この時期は、こういう商品は皆初めて見るので毎回イチから説明していました。なので、毎回毎回、一人のお客さんに30分以上説明していました。最初は買われず説明ばかりだったのですが、しばらくすると接客した人たちが着々と買いに来てくれ始めました。秋口から接客した概略人数を計算すると、お客さんが来る時間は限られるので、ちゃんと接客できた人は1日多くて15人、1か月で多くても450人。この頃は、誰も知らない商品だったので、接客した人か、それを伝え聞いた人しか買わなかったことを考えると、接客した人のほとんどが購入してくれたことになります。

商品が、認知度ゼロから火が点いていく時はこういうものかもしれません。

この時期、もう一つ驚きをもって感じていたことがあります。

それは、誰も知らない商品なのに、初めて見た商品なのに気に入って買ってくれる人のタイプです。

私は、流行に火を点けるのは、流行に敏感で新しいもの好きなタイプかと思っていました。イノベーター理論でも大体そう描かれていると思います。

少なくとも”ベビーラップ”が火が点いていく過程はまったく違っていました。

私が感じた、最初の頃に買ってくれた人のタイプとしての共通点は、「気遣いができる人」!?。マーケティングの話で人をそんなタイプ分けすることはないですよね。不思議でしょ?私も気のせいかと思っていました。自店のお客さんは良い人に見えるものなので。でもある日、同じ期間限定ショップの他の店の人から「あんたんとこのお客さんはよか人ばっかりでよかね~」。ビックリしてよくよく聞いてみると、うちのお客さんは、外から見ていると他店のお客さんと少し違うそうなのです。品がいいんだけど、別にお金持ち~という感じではなく、とにかく優しそうで、周囲にも気遣いしているのが凄く感じられて、そういうお客さんがうちにばかり来てるので羨ましくてしょうがないんだそうです。薄々そうかなと思いながらも気のせいかなと思っていたことを周りにはっきり言われてびっくりしました。

それから、どういう人がどんなものを買うのか、もの凄く気になるようになり、お客様に失礼な気もしながら、ついつい分析するようになりました。

すると、一般的なファッションのラインと違い、ベビーラップ(足付アフガン)のような”見たことないもの”を買うのは、新しいもの好きでも何でもないことに気が付きました。(というか、新しいもの好きって、意外に新しいものには気付かず、”メディアに出た新しいもの”に飛びついてる感じが・・・。)

確かに以前から、”ヒット商品は誰が最初に買うのか”という議論があります。経済の研究者やコンサルの方のように流行をマクロで追う方々には、新しいもの好きが最初に買うということでスッキリ整理できていたのでしょうが、流行が生まれる現場にいた人たちの実感は異なり、新しいもの好きというだけの人が、これから流行となるものに気付いている感じがしていなかったのではないでしょうか。現場を知る人には矛盾があったのでしょう。実際、新しいもの好きの人が「これ、新しいものだ」と気づくためには、まず情報が必要なんですよね。でも本当に最初に買う人は事前情報なしで目をとめているんですよね。これって、小さい話じゃなくて、コンサルの方がまず言う「ターゲットを絞って」のキモの部分になるので、ターゲットに刺さる広告を打つのか、商品ベースの草の根的な広がりを狙うのか、・・・とくに後者の時の根幹になります。草の根的にやろうとして、新しい物好きを狙うと「あれ?」となるケースが多いと思いますよ。

少なくとも、初めて見たベビーラップ(足付アフガン)を喜んで買っていってくれたのは、確かに、

”いいものに気付く、感受性があり”

”素直に人の説明を聞いてくれる、オープンマインドで”

”少し説明を聞いただけで機能を理解する、聡明な”、方がほとんどでした。

正直、新しいものを喜ぶ価値観の方はほとんどいませんでした。”ギフトでも、贈った自分がどう見られるかより、相手に何が本当に喜ばれるかを考える、思いやりのある”方が多かったですね。

意外と目立つのは、奥様から「あたしは良いと思ったんだけど、あなたも見てきて」と言われて来た、仕事帰りの旦那さんでした。ギフト一つでも思い付きで買わず、夫婦で相談して買う、微笑ましい人たちがもの凄く多かったです。

なので、お店をやっていても嫌な思いをすることはほとんどなく、あれよあれよと目の前でヒット商品が育っていきました。

よく、イノベーター理論のなかで、流行するものを最初に買う、”イノベーターは新しいものに飛びつくタイプ”と言われますが、私たちのケースでは全く違いました。何故でしょう?
一般的な流行を考えると、私は流行の発生のし方には二つあると考えています。
一つは、広告などを通じ上からドンと降りてきたものがうまくはまって火が点く、プロモーションベースの流行、
もう一つは、商品そのものに新規ファンが付き、口コミなどを通じ広がっていく、商品ベースの流行です。
市場の中で、大きくうごきやすいのは、プロモーションベースだと思います。広告などでマスを動かすケースも多いので、動く額も大きくなります。この場合だと、確かにターゲットをイノベーターか、アーリーアダプターに、時には最初からアーリーマジョリティに定め、その層に刺さるデザインやコピーで攻め、ダメだと思えば火傷しないうちに引けばいいのです。であれば、確かにターゲットを絞るというのは最重要です。一般のコンサルタントはここを強調しますね。
しかし、企業数で圧倒的に多いのは中小企業。規模の大きな広告を打てる企業は一握りですから、市場規模は小さくても本当に市場で数多く試行されているのは、商品ベースのトライアルのはずです。
中小事業者の場合、商品ベースでなんとかヒット商品を掴んで、成長せざるを得ません。商品ベースでの流行は、イノベーターになる人のタイプも違い、単純に”新しいもの好き”を想定してアプローチをしても空回りしてしまいます。案外、一般的なイノベーター理論がはまらないように思います。
商品ベースの流行を狙う場合、機能に訴える商品なのか、感性なのかでやり方も違いますし、火が点いてからの戦い方も違います。この場合、組織の機動性が非常に重要で、ターゲットにどう商品をはめていくかよりも、いかに売り場前線でのお客さんの声なき声を開発・改良、戦略修正にスピーディーに反映させる体制をとれるかがポイントになってくると思います。それをネットを介してできる商品なのかの判断もありますしね。ただ、意外にここをアドバイスできるコンサルタントってあまり多くない気がしますよね

 

次は、

1-4 卸先の開拓; 百貨店への売り込み 岩田屋・伊勢丹へ〈急げ!販路開拓〉

 

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